夢野 久作
老巡査
睦田老巡査はフト立ち止まって足下を見た。黄色い角燈の光りの輪の中に、何やらキラリと黄金色に光るものが落ちていたからであった。
老巡査は角燈を地べたに置いた。外套の頭巾を外して、シンカンと静まり返っている別荘地帯の真夜中の気はいに耳を澄ましたが、やがて手袋のまま外套の内ポケットを探って、覚束ない手付きで老眼鏡をかけながら、よく見ると、それは金口の巻煙草の吸いさしを、短かい銅線の切端の折れ曲りに挟んで、根元まで吸い上げた残りであった。そこいらにすこしばかり灰が散らばっているところを見ると、ツイ今しがた投げ棄てたものらしかったが、しかし火は完全に消えていた。おおかた冷たい大地の湿気を吸ったものであろう。
睦田巡査は、いくらか失望したらしく、力ない手付きで眼鏡を外した。そうして、
「心配なことはない」