夢野 久作

継子

どこか遠くで一つか二つか鳴るボンボン時計の音を聞くと、睡むられずにいた玲子はソッと起上った。

屋根裏の窓に引っかかっている春の夜の黄色い片割月を見上げながら、洗い晒しの綿ネルの単衣一枚に細帯を一つ締めて、三階の物置の片隅に敷いてある薄ッペラな寝床から脱け出した。鼻を抓まれてもわからない暗黒の中を素跣足の手探りに狭い梯子段を二階のサロンに降りて来た。

……この頃来なくなっている玲子の家庭教師の大学生、中林哲五郎先生に昨日の昼間、速達で出した手紙の文句を思い出しながら……。

中林先生。早く玲子を助けに来て下さい。

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