夢野 久作
冥土行進曲
一
昭和×年四月二十七日午後八時半……。
下関発上り一二等特急、富士号、二等寝台車の上段の帷をピッタリと鎖して、シャツに猿股一つのまま枕元の豆電燈を灯けた。ノウノウと手足を伸ばした序に、枕元に掛けた紺背広の内ポケットから匕首拵の短刀を取出して仰向になったまま鞘を払ってみた。
切先から※(「金+示+且」、第3水準1-93-34)元まで八寸八分……一点の曇もない。正宗相伝の銀河に擬う大湾に、火焔鋩子の返りが切先長く垂れて水気が滴るよう……中心に「建武五年。於肥州平戸作之。盛広」と銘打った家伝の宝刀である。近いうちにこの切先が、私の手の内で何人かの血を吸うであろう……と思うと一道の凄気が惻々として身に迫って来る。