横光 利一
父
雨が降りさうである。庭の桜の花が少し凋れて見えた。父は夕飯を済ませると両手を頭の下へ敷いて、仰向に長くなつて空を見てゐた。その傍で十九になる子と母とがまだ御飯を食べてゐる。
「踊を見に行かうか三人で。」と出しぬけに父は云つた。
「踊つて何処にありますの。」と母は訊き返した。
「都踊さ、入場券を貰ふて来てあるのやが、今夜で終ひやつたな。」
横光 利一
雨が降りさうである。庭の桜の花が少し凋れて見えた。父は夕飯を済ませると両手を頭の下へ敷いて、仰向に長くなつて空を見てゐた。その傍で十九になる子と母とがまだ御飯を食べてゐる。
「踊を見に行かうか三人で。」と出しぬけに父は云つた。
「踊つて何処にありますの。」と母は訊き返した。
「都踊さ、入場券を貰ふて来てあるのやが、今夜で終ひやつたな。」