吉行 エイスケ

孟買挿話

1

数年前、孟買の赤丸平家の日本人倶楽部の Chamber maid に河上アダという混血児が雇われていた。

外国の日本人経営のクラブとかレストランでは先例によって女を雇入れることはめったにないことなのだが、私は天津の日本租界、敷島町の或るレストランに近頃日本の少女が青磁の衣服をつけてそれでなくとも感傷的になった旅人の私の心を瞑想的にするのに会ったことがある。

それだからアダがコケティッシュな服装で赤丸平家の日本人倶楽部に現われたときは、凡そ浮かれ男の眼にはそれがアラビア海のマラバル岬に鮮かな赤更紗の虹がうき出たように濃い色彩を着けたことは勿論だがまた彼女が短いスカートから現した近代的な武装を解除した両脚にはいた棕櫚の葉で作ったような靴下の野性的な蠱惑の中から浮かれ男の思いもよらぬ数々の女の生命が幻燈のように現れてくるのだ。

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