若山 牧水
鴉と正覚坊
正覺坊
いつもより少し時間は遲かつたが、晩酌前の散歩をして來ようと庭つゞきの濱の松原へ出かけて行つた。其處には松原を縱に貫いて通じてゐる靜かな小徑があり、朝夕私の散歩徑となつてゐる。一二町も歩いたところで、濱から上つてその小徑を切る小徑がある。其處で三人連の漁師の子供に出會つた。いづれも十歳ばかりの見知らぬ子供たちであるが、なかの一人が行きちがひさまに矢庭に私に向つて兩手をひろげて、
『龜があがつたよ、斯んなにでつけえ龜が……』
と言つた。
若山 牧水
正覺坊
いつもより少し時間は遲かつたが、晩酌前の散歩をして來ようと庭つゞきの濱の松原へ出かけて行つた。其處には松原を縱に貫いて通じてゐる靜かな小徑があり、朝夕私の散歩徑となつてゐる。一二町も歩いたところで、濱から上つてその小徑を切る小徑がある。其處で三人連の漁師の子供に出會つた。いづれも十歳ばかりの見知らぬ子供たちであるが、なかの一人が行きちがひさまに矢庭に私に向つて兩手をひろげて、
『龜があがつたよ、斯んなにでつけえ龜が……』
と言つた。