宮本 百合子
シナーニ書店のベンチ
厳寒で、全市は真白だ。屋根。屋根。その上のアンテナ。すべて凍って白い。大気は、かっちり燦いて市街をとりかこんだ。モスクワ第一大学の建物は黄色だ。
我々は、古本屋の半地下室から出た。『戦争と平和』の絵入本二冊十五ルーブリ。
大学の壁にビラが貼ってある。各劇場の今週間の番組。曲芸師ケファロの横顔――
ほとんど通り過ぎかけて、私は俄に声を出して云った。「園がある、園が」ビラの一つに、「園」という大活字がたしかに見えた――
宮本 百合子
厳寒で、全市は真白だ。屋根。屋根。その上のアンテナ。すべて凍って白い。大気は、かっちり燦いて市街をとりかこんだ。モスクワ第一大学の建物は黄色だ。
我々は、古本屋の半地下室から出た。『戦争と平和』の絵入本二冊十五ルーブリ。
大学の壁にビラが貼ってある。各劇場の今週間の番組。曲芸師ケファロの横顔――
ほとんど通り過ぎかけて、私は俄に声を出して云った。「園がある、園が」ビラの一つに、「園」という大活字がたしかに見えた――