芥川 竜之介
芭蕉雑記
一 著書
芭蕉は一巻の書も著はしたことはない。所謂芭蕉の七部集なるものも悉門人の著はしたものである。これは芭蕉自身の言葉によれば、名聞を好まぬ為だつたらしい。
「曲翠問、発句を取りあつめ、集作ると云へる、此道の執心なるべきや。翁曰、これ卑しき心より我上手なるを知られんと我を忘れたる名聞より出る事也。」
かう云つたのも一応は尤もである。しかしその次を読んで見れば、おのづから微笑を禁じ得ない。
芥川 竜之介
一 著書
芭蕉は一巻の書も著はしたことはない。所謂芭蕉の七部集なるものも悉門人の著はしたものである。これは芭蕉自身の言葉によれば、名聞を好まぬ為だつたらしい。
「曲翠問、発句を取りあつめ、集作ると云へる、此道の執心なるべきや。翁曰、これ卑しき心より我上手なるを知られんと我を忘れたる名聞より出る事也。」
かう云つたのも一応は尤もである。しかしその次を読んで見れば、おのづから微笑を禁じ得ない。