内田 魯庵

灰燼十万巻

十二月十日、珍らしいポカ/\した散歩日和で、暢気に郊外でも※(「彳+淌のつくり」、第3水準1-84-33)※(「彳+羊」、第3水準1-84-32)きたくなる天気だったが、忌でも応でも約束した原稿期日が迫ってるので、朝飯も匆々に机に対った処へ、電報!

丸善から来た。朝っぱらから何の用事かと封を切って見ると、『ケサミセヤケタ。』

はて、解らん。何の事ッたろう。何度読直しても『今朝店焼けた』としか読めない。金城鉄壁ならざる丸善の店が焼けるに決して不思議は無い筈だが、今朝焼けるとも想像していないから、此簡単な仮名七字が全然合点めなかった。

且此朝は四時半から目が覚めていた。火事があったら半鐘の音ぐらい聞えそうなもんだったが、出火の報鐘さえ聞かなかった。怎うして焼けたろう? 怎うしても焼けたとは思われない。

青空文庫の作品カード