太宰 治
美男子と煙草
私は、独りで、きょうまでたたかって来たつもりですが、何だかどうにも負けそうで、心細くてたまらなくなりました。けれども、まさか、いままで軽蔑しつづけて来た者たちに、どうか仲間にいれて下さい、私が悪うございました、と今さら頼む事も出来ません。私は、やっぱり独りで、下等な酒など飲みながら、私のたたかいを、たたかい続けるよりほか無いんです。
私のたたかい。それは、一言[#「一言」は底本では「一事」]で言えば、古いものとのたたかいでした。ありきたりの気取りに対するたたかいです。見えすいたお体裁に対するたたかいです。ケチくさい事、ケチくさい者へのたたかいです。
私は、エホバにだって誓って言えます。私は、そのたたかいの為に、自分の持ち物全部を失いました。そうして、やはり私は独りで、いつも酒を飲まずには居られない気持で、そうして、どうやら、負けそうになって来ました。
古い者は、意地が悪い。何のかのと、陳腐きわまる文学論だか、芸術論だか、恥かしげも無く並べやがって、以て新しい必死の発芽を踏みにじり、しかも、その自分の罪悪に一向お気づきになっておらない様子なんだから、恐れいります。押せども、ひけども、動きやしません。ただもう、命が惜しくて、金が惜しくて、そうして、出世して妻子をよろこばせたくて、そのために徒党を組んで、やたらと仲間ぼめして、所謂一致団結して孤影の者をいじめます。