幸徳 秋水
筆のしづく
一
近日何ぞ傷心の事多きや、緑雨は窮死し、枯川は絏紲の人となる、風日暖にして木々の梢緑なる此頃の景色にも、我は中心転た寂寞の情に堪へず、意強き人は女々しと笑はん、我は到底情を矯むるの力なし。
緑雨は病めりき、左れど彼の死せるは病めるが為めに死せるにはあらず、病を養ふ能はざるが為めに死せるなり、繰返していふ、緑雨の死せるは病ありしが為めにあらず、金なかりしが為めなり。
彼は心やさしく、友に厚かりき、左れど今の世に処せんには彼は余りに正直なりき、余りに男らしかりき、彼は常に曰へらく、「我は武士の子なり」と、然り彼の気質は余りに武士らしかりき、故に餓えたり。