岡本 綺堂

半七捕物帳

一

十月のなかばであった。京都から到来の松茸の籠をみやげに持って半七老人をたずねると、愛想のいい老人はひどく喜んでくれた。

「いや、いいところへお出でなすった、実は葉書でも上げようかと考えていたところでした。なに、別にこれという用があるわけでも無いんですが、実はあしたはわたくしの誕生日で……。こんな老爺さんになって、なにも誕生祝いをすることも無いんですが、年来の習わしでほんの心ばかりのことを毎年やっているというわけです。勿論、あらたまって誰を招待するのでもなく、ただ内輪同士が四、五人あつまるだけで、あなたも御存じの三浦さんと、せがれ夫婦と孫が二人。それだけがこの狭い座敷に坐って、赤い御飯にお頭付きの一尾も食べるというくらいのことです。この前日に京都の松茸を頂いたのは有難い。おかげで明晩の御料理が一つ殖えました。そういう次第で、なんにも御馳走はありませんけれども、あなたも遊びに来て下さいませんか」

「ありがとうございます。是非うかがいます」

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