林 芙美子
瑪瑙盤
1 ミツシヱルは魚ばかり食べたがる女であつた。
魚屋の前を通ると、牡蛎籠の上に一列に並んでゐるレモンの粒々に、鼻をクンクンさせたり鮫の白い切り口を、何時までも指で押してみたりしては買へもせぬ癖に、何か口の中でブツブツものをいひながら、立ちつくしてゐることがあつた。
ミツシヱルは南フランスの生れで、髪は南国風に黒つぽい色をしてゐる。
「小さいお嬢さん! 私しのびなき」
林 芙美子
1 ミツシヱルは魚ばかり食べたがる女であつた。
魚屋の前を通ると、牡蛎籠の上に一列に並んでゐるレモンの粒々に、鼻をクンクンさせたり鮫の白い切り口を、何時までも指で押してみたりしては買へもせぬ癖に、何か口の中でブツブツものをいひながら、立ちつくしてゐることがあつた。
ミツシヱルは南フランスの生れで、髪は南国風に黒つぽい色をしてゐる。
「小さいお嬢さん! 私しのびなき」