林 芙美子

或る女

何時ものやうに歸つて來ると、跫音をしのばせて梯子段へ足さぐりで行つたが、梯子段の下の暗がりで、良人の堂助が矢庭に懷中電燈をとぼした。たか子はぎくつとして小さい叫び聲を擧げた。

「何さ‥‥まだ、あなた、起きていらつしたの?」

「寢てればよかつたのかい?」

「厭アな方ねえ、一寸遲くなるとこれなンですもの‥‥あなたのお時計、いま幾時なンですの?」

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