林 芙美子

鶴の笛

昔、ききんのつづいた年がありました。その村には鶴が大変たくさんいました。鶴たちは毎日、たべものを探して歩きましたけれど、どこにもたべものがないので、気の早い鶴はみんな旅仕度をして遠くへ飛んでゆきました。

すると、足の悪い鶴と、そのお嫁さんだけが、その村へのこることになりました。足の悪い鶴は、みんなのいなくなったさびしい沼地のふちの葦のしげったところに立ってみんなが飛びたって行った空をみていました。

ある日、鶴のお嫁さんは水ぎわのなかを、一生懸命くちばしでたべものを探していました。小魚でも一ぴきぐらいいないかしら、どじょうでもいい、もう、今朝はさすがにふらふらになって一生懸命、あっちこっち探していました。朝陽がきらきら光って広い空に浮雲が一つ西の方へゆるく流れてゆきます。若木の林のなかは、ところまだらに陽の光が煙っていて美しい景色でした。

すると、しばらくして、何ともいえない美しい笛の音色がきこえました。おや、何だろうと思いました。いままでおなかのすいていたお嫁さんの鶴は、ふっとおなかのくちくなるような気がして、その美しい笛の音色をきいていました。

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