寺田 寅彦

青磁のモンタージュ

「黒色のほがらかさ」ともいうものの象徴が黒楽の陶器だとすると、「緑色の憂愁」のシンボルはさしむき青磁であろう。前者の豪健闊達に対して後者にはどこか女性的なセンチメンタリズムのにおいがある。それでたぶん、年じゅう胃が悪くて時々神経衰弱に見舞われる自分のような人間には楽焼きの明るさも恋しいがまた同時に青磁にも自然の同情があるのかもしれない。

故夏目漱石先生も青磁の好きな人間の仲間であったが、先生も胃が悪くて神経衰弱であったのである。先生は青磁の鉢に羊羹を盛った色彩の感じを賞したことがあったように記憶する。

青磁の皿にまっかなまぐろのさしみとまっ白なおろし大根を盛ったモンタージュはちょっと美しいものの一つである。いきのよいさしみの光沢はどこか陶器の光沢と相通ずるものがある。逆に言えば陶器の肌の感触には生きた肉の感じに似たものがある。ある意味において陶器の翫賞はエロチシズムの一変形であるのかもしれない。

青磁の徳利にすすきと桔梗でも生けると実にさびしい秋の感覚がにじんだ。あまりにさびしすぎて困るかもしれない。

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