寺田 寅彦
三斜晶系
一 夢
七月二十七日は朝から実に忙しい日であった。朝起きるとから夜おそくまで入れ代わり立ち代わり人に攻められた。くたびれ果てて寝たその明け方にいろいろの夢を見た。
土佐の高知の播磨屋橋のそばを高架電車で通りながら下のほうをのぞくと街路が上下二層にできていて堀川の泥水が遠い底のほうに黒く光って見えた。
四つ辻から二軒目に緑屋と看板のかかったたぶん宿屋と思われる家がある。その狭い入り口から急な階段を上がると、中段の踊り場に花売りの女がいた。それを見ると妙に悲しかった。なぜかわからない。