与謝野 晶子
御門主
先刻まで改札の柵の傍に置いてあつた写真器は裏側の出札口の前に移されて、フロツクコートの男が相変らず黒い切を被いだり、レンズを覗いたりして居る。その傍に中年老年の僧侶が法衣の上から種々の美しい袈裟を掛けて三十五六人立つて居る。羽織袴の服装の紳士もそれと同じ数程居て、フロツクコートを着た人も混つて、口々に汽車が後れたから、汽車が定刻より遅く着くさうだからと云つて居る。この様を場内の旅客が珍らしさうに立つて見て居る中に、桃割に結つて花車ななよ/\とした身体を伴れの二十四五の質素な風をした束髪の女の身体にもたれるやうにして、右の手ではもう一人の伴れの二十一二の束髪の女の袂の先を持つて、
『沢山な坊さんだわね。二十人坊主、三十人坊主。ほ、ほ、ほ。』
と笑つて居る女がある。
『えヽ、さうですね。』