与謝野 晶子

女が来て

良人は昨日来た某警察署の高等視察のした話をSさんにして居ました。私は手に卓上と云ふ茶色の表紙をした雑誌を持ちながら、初めて聞く話でしたから良人の言葉に耳を傾けて居ました。

『あの時居たYをね、あれがNさんでせうつて云ふのだよ。』

と良人は私に話を向けました。私は思はず笑ひ出しました。その高等視察が来ました時に私はKさんと云ふ人とやはりこの応接室で話をして居たのでした。私が階下へ降りると直ぐKさんも階下へ来ました。それ迄良人と話をして居たYさんも続いて階下の座敷へ来ましたから、私は今来た人が人払ひを頼んだのであらうと思つたのでした。

『Yさんが大変なお金持に見られるつて、まあね。』

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