大杉 栄
獄中記
市ヶ谷の巻
前科割り
東京監獄の未決監に「前科割り」というあだ名の老看守がいる。
被告人どもは裁判所へ呼び出されるたびに、一と馬車(この頃は自動車になったが)に乗る十二、三人ずつ一組になって、薄暗い広い廊下のあちこちに一列にならべさせられる、そしてそこで、手錠をはめられたり腰縄をかけられたりして、護送看守部長の点呼を受ける。「前科割り」の老看守は一組の被告人に普通二人ずつつくこの護送看守の一人なのだ。いつ頃からこの護送の役目についたのか、またいつ頃からこの「前科割り」のあだ名を貰ったのか、それは知らない。しかし、少なくとももう三十年くらいは、監獄の飯を食っているに違いない。年は六十にとどいたか、まだか、くらいのところだろう。