森 鴎外
食堂
木村は役所の食堂に出た。
雨漏りの痕が怪しげな形を茶褐色に画いている紙張の天井、濃淡のある鼠色に汚れた白壁、廊下から覗かれる処だけ紙を張った硝子窓、性の知れない不潔物が木理に染み込んで、乾いた時は灰色、濡れた時は薄墨色に見える床板。こう云う体裁の広間である。中にも硝子窓は塵がいやが上に積もっていて、硝子というものの透き徹る性質を全く失っているのだから、紙を張る必要はない。それに紙が張ってあるのは、おおかた硝子を張った当座、まだ透き徹って見えた頃に発明の才のある役人がさせた事だろう。
この広間に白木の長い卓と長い腰掛とが、小道具として据え附けてある。これは不断片附けてある時は、腰掛が卓の上に、脚を空様にして載せられているのだが、丁度弁当を使う時刻なので、取り卸されている。それが食事の跡でざっと拭くだけなので、床と同じ薄墨色になっている。
一体役所というものは、随分議会で経費をやかましく言われるが、存外質素に出来ていて、貧乏らしいものである。