若山 牧水
樹木とその葉
伊豆半島西海岸、古宇村、宿屋大谷屋の二階のことである。九月一日、正午。
その日の晝食はいつもより少し早かつた。數日前支那旅行の歸りがけにわざ/\其處まで訪ねて來て呉れた地崎喜太郎君が上海からの土産物の極上ウヰスキイを二三杯食前に飮んだのがきいて、まだ膳も下げぬ室内に仰臥してうと/\と眠りかけてゐた。
其處へぐら/\ツと來たのであつた。
生來の地震嫌ひではあるが、何しろ半分眠つてゐたのではあるし、普通ありふれたもの位ゐにしか考へずに、初めは起上る事もしなかつた。ところが不圖見ると廊下の角に當る柱が眼に見えて斜めになり、且つそれから直角に渡された雙方の横木がぐつと開いてゐるのに氣がついた。