若杉 鳥子

雨の回想

ゆうべからの雨はとうとう勢いを増して、ひる頃から土砂降りになった。樹の葉は青々と乱れ、室内の物影には、蒼黒い陰影がよどむ。

私は窓から、野一面白い花でうごめいている鉄道草の上に、雨のしぶくのを見ていたが、私はいつか知らない土地で、何時霽[#ルビの「は」は底本では「はれ」]れるとも知れぬ長雨にあって、やはりこうして降る雨をみつめていた、子供の時の気持ちを思い出した。

それは何処の土地だか知れないが、向こうの神社の杜の中から、お神楽の太鼓が響いて、時々子供達の騒ぐ声が、波のようにきこえて来た。向こうの藁葺屋根の暗い軒端に、祭礼と書いた赤い万灯が立て掛けてあって、それが雨に濡れて字が滲み、ぽたぽたと赤い雫を落としていた。私は何ともいえない、うら悲しい気持ちで、その百姓家の窓から、これらの風物を見つめていたのだった。だが、「もう帰ろうよゥ」ともいい出せない、せっぱ詰まった事情でそこに雨宿りしているということは、子供ながらに知っていた。そして帰りたいのを凝と堪えていたのだった。

それは多分、私の里子にやられていた家の親達が、もう百姓の仕事を止めて、旅商人になってからのことだったと思う。

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