矢田 津世子
罠を跳び越える女
三階利札室は銃声のない戦場だ。
凄じい誰かの咳、猛烈な紙埃、白粉の鬱陶しい香いと捌口のない炭酸瓦斯の匍匐、
拇指と人差指の多忙な債券調査、海綿の音高い悲鳴、野蛮な響きを撒きちらす鋏、撥ね返るスタンプ、※[#「口+盧」、461-上-6]、ナンバアリングの律動的な活動、騒々しい帳薄の開閉、大仰な溜息、金額を叫ぶソプラノ、算盤の激しい火花、ペン先きの競争的な流れ、それを追いかける吸い取り紙……
「ねえ、貸付けへすごいのが這入ったわ。見て? ナ※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)アロ型のシャンよ……」