本庄 陸男

前夜

音のしないように板戸を開けた、親爺は煙管を横ぐわえにしてじろっと此方を見た。夜目にもその目が血走っていた、清二は腫物にさわるような思いで地下足袋を脱ぎ、井戸端に行ってゆっくり足を洗った。掘抜井戸の水が脚に流れ落ち砕けていた。

馬小屋で、馬が鼻をならし乍ら頻りにあがいた、首を上げると庭先を自転車が辷り込んで来た。村瀬だった。

「どうでえ?」と彼はひどくうれしそうな声で云った。

「出征兵士遺族の畑の、メーデー耕作とは、常任、頭が利くな?」

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