海野 十三

心臓盗難

深夜の事件

黒眼鏡に、ひどい猫背の男が、虎猫色の長いオーバーを地上にひきずるようにして、深夜の町を歩いていた。

めずらしく暖い夜で、町並は霧にかくれていた。もはや深更のこととて行人の足音も聞えず、自動車の警笛の響さえない。

黒眼鏡にひどい猫背の男は、飄々として、S字状に曲った狭い坂道をのぼって行く。この男こそ、名乗りをあげるなら誰でも知っている、有名な頑張り探偵の袋猫々その人であった。彼こそは、かの大胆不敵にして奇行頻々たる怪賊の烏啼天駆といつも張合っているので有名なわけだった。そして彼は、おおむね烏啼のためにしてやられることが多く、従来のスコアは十九対一ぐらいのところであった。しかし名探偵袋猫々には、常に倦まず屈しない頑張りの力があった。それは猫力というやつであったが、彼はこの猫力でもって、いずれ近いうちにめでたく、怪賊烏啼めを刑務所の鉄格子の中に第二封鎖せんことを期しているのだった。

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