黒島 伝治
名勝地帯
そこは、南に富士山を背負い、北に湖水をひかえた名勝地帯だった。海抜、二千六百尺。湖の中に島があった。
見物客が、ドライブしてやって来る。何とか男爵別荘、何々の宮家別邸、缶詰に石ころを入れた有名な奴の別荘などが湖畔に建っていた。
小川米吉は、そこへ便所を建てた。便所は屋根が板屋根で新しかった。「駐在所の且那が、おめえに、一寸、来いってよオ。」女房が、笹を伐りに行っていた米吉に帰ると云った。
「何用だい?」
黒島 伝治
そこは、南に富士山を背負い、北に湖水をひかえた名勝地帯だった。海抜、二千六百尺。湖の中に島があった。
見物客が、ドライブしてやって来る。何とか男爵別荘、何々の宮家別邸、缶詰に石ころを入れた有名な奴の別荘などが湖畔に建っていた。
小川米吉は、そこへ便所を建てた。便所は屋根が板屋根で新しかった。「駐在所の且那が、おめえに、一寸、来いってよオ。」女房が、笹を伐りに行っていた米吉に帰ると云った。
「何用だい?」