宮本 百合子
モスクワ日記から
一九三〇年九月×日。
予約出版物の用事で「アガニョーク」社へ出かけた。白樺の粗末な板塀についた切り戸から入るようになっている。(普請中で。)
この間は人足が泥をほじっていた横の空地がもうちゃんと子供の遊場になっている。砂場、ブランコ、滑り台。こっちでは、丁度昼休みで、「アガニョーク」の若い男女の連中がシャツ一枚になって新しい遊び場を早速利用しボールをやって遊んでいる。子供の笑い声、青年たちの笑声。秋空が澄んで、大きい菩提樹の梢が気持いい日光の下で黄ばみかけている。
この頃のモスクワと来たら、一ヵ月も見ないともういつの間にか、町角の様子なんかガラリとかわっちまう。新建築の板囲いが出来る。道路拡張で目じるしにしておいたボロ建物がとりはらわれる。歩いているうちに此方まで元気になって来るような建設の活気がモスクワ中に溢れている。