宮本 百合子
文学のひろがり
岩波新書のなかに、米川正夫氏の翻訳でヴォドピヤーノフというひとの書いた「北極飛行」という本がある。
これは純粋な文学書ではなくて、ソ連の北極探検飛行の記録である。著者も作家ではない操縦士である。彼の指導によって北極の歴史的飛行が完成されたのち、「如何にして空想が現実となったか」という題の記録を『新世界』にのせた。それを米川氏が着目して、ルポルタージュとして上々のものという評価から紹介されたものである。
二百六十頁に満たないこの本は、実に面白い。読み終るのが惜しいと思いながらも一気に読めてしまう。そういう魅力の深い本だが、その内容がまた幾つもの文化上の課題を暗示するのである。
科学を専門とする人は、この本の中から必ずその方面の少くない示唆を受けることだろう。文学の面にふれてもやはり興味をうごかされる点が少くない。