宮本 百合子
坪内先生について
坪内先生に、はじめて牛込余丁町のお宅でおめにかかったのは、もう十数年以前、私が十八歳の晩春であったと思う。両親が私の書いたものを坪内先生に見ていただくようにきめて、母が私を連れ余丁町のお家を訪ねたのであった。
私は受け身に、きめられた手筈にしたがって永い道を車にのって行った。
二階のお座敷に、平たくて大きいテーブルがあったように覚えている。床の間には大きい支那の石刷がかかっていたと思う。そこへ、どちらかというと速くて軽い跫音が階子をのぼって来て、並んで坐っている私たち母子の後から坪内先生が現われた。
その頃もう白い髭であられた。兵児帯をゆるく巻きつけ、抑揚にとんだ声で、