太宰 治

狂言の神

なんじら断食するとき、かの偽善者のごとく悲しき面容をすな。

(マタイ六章十六。)

今は亡き、畏友、笠井一について書きしるす。

笠井一。戸籍名、手沼謙蔵。明治四十二年六月十九日、青森県北津軽郡金木町に生れた。亡父は貴族院議員、手沼源右衛門。母は高。謙蔵は、その六男たり。同町小学校を経て、大正十二年青森県立青森中学校に入学。昭和二年同校四学年修了。同年、弘前高等学校文科に入学。昭和五年同校卒業。同年、東京帝大仏文科に入学。若き兵士たり。恥かしくて死にそうだ。眼を閉じるとさまざまの、毛の生えた怪獣が見える。なあんてね。笑いながら厳粛のことを語る。と。

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