太宰 治
メリイクリスマス
東京は、哀しい活気を呈していた、とさいしょの書き出しの一行に書きしるすというような事になるのではあるまいか、と思って東京に舞い戻って来たのに、私の眼には、何の事も無い相変らずの「東京生活」のごとくに映った。
私はそれまで一年三箇月間、津軽の生家で暮し、ことしの十一月の中旬に妻子を引き連れてまた東京に移住して来たのであるが、来て見ると、ほとんどまるで二三週間の小旅行から帰って来たみたいの気持がした。
「久し振りの東京は、よくも無いし、悪くも無いし、この都会の性格は何も変って居りません。もちろん形而下の変化はありますけれども、形而上の気質に於いて、この都会は相変らずです。馬鹿は死ななきゃ、なおらないというような感じです。もう少し、変ってくれてもよい、いや、変るべきだとさえ思われました。」
と私は田舎の或るひとに書いて送り、そうして、私もやっぱり何の変るところも無く、久留米絣の着流しに二重まわしをひっかけて、ぼんやり東京の街々を歩き廻っていた。