宮本 百合子
女の歴史
数人の若い女のひとたちが円く座って喋っている。いろんな話の末、映画のことになって、ひとりの人に、あなたは誰がお好き? ときいた。そのひとは房々と長く美しく波うたせてある髪を瀟洒な鼠色スーツの肩で一寸揺って、さあ、と口ごもっている。きまりわるいのかしらと思って、私は自分からロゼエの名などあげて、あなたは? ともう一遍云ったら、そのひとはいかにも生活から遠くのことでも云っている調子で、その映画のなかでさえよかったらそれでいいんじゃないでしょうか、と感情のない声で答えた。
あら、だって、その映画のなかでよければ、やっぱり好きとも云えるのじゃないの。勿論、映画の中でのことよ、好きと云ったってきらいと云ったって。
そのひとはまた美しい髪をゆするようにして軽い笑を口辺に浮べて黙っている。
偶然話の合間に云われた一語に執してものを云うとなれば意地わるのようでもあるが、それでも私には何だかこの若いひとの一語とそれの云われた態度とはつよい感銘であった。その人たちの帰ったあとも、自然いろいろ考えられた。