宮本 百合子
働く婦人の歌声
今日いろいろの職場に働いている若い婦人たちはただ自分たちがそうやって毎日勤めに出て働いているということにだけ誇りを感じているような単純な心で社会を見てはいない。
勤勉なこれらの女性たちは、自分たちの働きに酬いられるものが自分一人を食べさせ、住ませ、着させ、人間として向上してゆくために決して十分でないことをよく知っている。友達としては積極に社会へ出て働く婦人を好んでも、妻としての女性を考えるとやっぱり職場にいるひとでない対象を念頭に浮べるような男のひと達の矛盾した感情をも、直接自分たちの人生に関係をもっていることとして、複雑に感じとられている。
日本の若い働く女性たちのことごとくが置かれている、この職場と家庭生活との板挾みの状態は極めて深刻な性質をもっている。日本の社会が近代化して来たテムポは明治このかた非常に急であるが、そのことは、一方に前時代の様々な習俗が自然に常識の中で変化されてゆくだけの時間がなかったことをも意味していて、社会の激しい動きはどんどん若い女性を社会的な職場へ招きよせているにもかかわらず、女について云われる家庭の婦人らしさの内容は、常に一番多く昔ながらの習慣しきたりを負うているのである。
近代的な社会要素と封建の要素とが最もいり組んだ関係で絡みあっているのが、日本の働く女性たちの境遇である。