宮本 百合子
女性の書く本
小さい年表をこしらえる仕事がきっかけとなって、先頃古い出版年鑑をくりかえして見た。直接には、婦人がどんな文学的労作を出版しているかということを知りたかったのだけれども、年鑑をくってゆくうちに、様々の感想にうたれた。
大体に云って、最近まで、女性が本を出している割合は大変すくない。どの年でも、出版の一番多くの割合を占めて来たのは文学関係であるけれども、その中で女性によって著わされた本の数は実に僅かなもので、年によれば只の一冊もとるに足る書物があらわれていない年さえある。
僅かながら年々絶えず出版されていたのは家事・家政・料理・育児・裁縫・手芸などの本で、それにしろ程度から云うと大体は補習書めいたものが多い。
これらの状態を、ひとめでわかる統計図にして、今日の日本の若い女性たちが眺めたら、彼女たちは自分たちの文化上の実力の伝統について、どんな感懐をもつであろうか。