宮本 百合子
「モダン猿蟹合戦」
二日ばかり前のことです。用事があって下町へ出かけ、日本橋白木屋の前を通りがかった。いつも人出の多いところだが、今日は又一段と雑踏だ。白木屋の飾窓のまわりが大変な混雑なのです。
何かと思って見ると、いくつも並んだ大きいデパートの窓々に飾られているのは、例によって呉服物の見本をきた人形ではない。――人形は人形だが、こしらえものの雪の中に立って防寒具をつけた兵士人形です。人がウンとたかっているのはそれを見ていたわけです。大きい字で「満蒙展覧会」という広告も出ている。
時間があったので一寸入って見る気になりました。
白木屋の玄関に立っている案内がきをよむと、展覧会の会場はいくつもあり、近日中にえらい陸軍の軍人が来て景物に講演をやったり、軍用犬の実演をやって見せたりする日どりまで知らしてある。――