海野 十三
什器破壊業事件
女探偵の悒鬱
「離魂の妻」事件で、検事六条子爵がさしのばしたあやしき情念燃ゆる手を、ともかくもきっぱりとふりきって帰京した風間光枝だったけれど、さて元の孤独に立ちかえってみると、なんとはなく急に自分の身体が汗くさく感ぜられて、侘しかった。
「つよく生きることは、なんという苦しいことであろうか?」
彼女は、日頃のつよさに似ず、どういうものかあれ以来急に気が弱くなってしまった。たったあれくらいのことで、急に気が弱くなってしまうというのも、所詮それは女に生れついたゆえであろうが、さりとは口惜しいことであると、深夜ひそかに鏡の前で、つやつやした吾れと吾が腕をぎゅっとつねってみる光枝だった。