国木田 独歩
疲労
京橋区三十間堀に大来館という宿屋がある、まず上等の部類で客はみな紳士紳商、電話は客用と店用と二種かけているくらいで、年じゅう十二三人から三十人までの客があるとの事。
ある年の五月半ばごろである。帳場にすわっておる番頭の一人が通りがかりの女中を呼んで、
「お清さん、これを大森さんのとこへ持っていって、このかたが先ほど見えましたがお留守だと言って断わりましたって……」
と一枚の小形の名刺を渡した。お清はそれを受けとって梯子段を上がった。
国木田 独歩
京橋区三十間堀に大来館という宿屋がある、まず上等の部類で客はみな紳士紳商、電話は客用と店用と二種かけているくらいで、年じゅう十二三人から三十人までの客があるとの事。
ある年の五月半ばごろである。帳場にすわっておる番頭の一人が通りがかりの女中を呼んで、
「お清さん、これを大森さんのとこへ持っていって、このかたが先ほど見えましたがお留守だと言って断わりましたって……」
と一枚の小形の名刺を渡した。お清はそれを受けとって梯子段を上がった。