国木田 独歩
恋を恋する人
一
秋の初の空は一片の雲もなく晴て、佳い景色である。青年二人は日光の直射を松の大木の蔭によけて、山芝の上に寝転んで、一人は遠く相模灘を眺め、一人は読書している。場所は伊豆と相模の国境にある某温泉である。
渓流の音が遠く聞ゆるけれど、二人の耳には入らない。甲の心は書中に奪われ、乙は何事か深く思考に沈んでいる。
暫時すると、甲は書籍を草の上に投げ出して、伸をして、大欠をして、
国木田 独歩
一
秋の初の空は一片の雲もなく晴て、佳い景色である。青年二人は日光の直射を松の大木の蔭によけて、山芝の上に寝転んで、一人は遠く相模灘を眺め、一人は読書している。場所は伊豆と相模の国境にある某温泉である。
渓流の音が遠く聞ゆるけれど、二人の耳には入らない。甲の心は書中に奪われ、乙は何事か深く思考に沈んでいる。
暫時すると、甲は書籍を草の上に投げ出して、伸をして、大欠をして、