海野 十三

沈没男

(×月×日、スカパフロー発)

余は本日正午、無事ロイヤル・オーク号に乗艦せるをもって、御安心あれ。

余は、どうせ乗艦するなら、いきのいい海戦を見物したいものと思い、英国海軍省に対し、ドーヴァ、ダンジネル、ハリッチの三根拠地のいずれかにて、英艦に乗込みたき旨要請したのであるが、それは彼の容れるところとならず、わざわざ北方スコットランドのそのまた極北のはなれ小島であるオークニー群島へ送りこまれたのは、甚だ心外であった。このスカパフロー湾は、相手国たる独国の海軍根拠地ウィルヘルムスハーフェンを去ること実に五百六十哩の遠隔の地にあり、独国軍艦にお目にかかるのには、外野席以上の遠方の地点で、これほど縁どおいところはない。

余は、いささか憤慨して、軍港副官にどなり込んだのであるが、彼はむしろ意外だという顔つきで、余のためにこれほど、生命の危険なき安全なる軍港をえらび与えたのに、なにが気に入らぬかといい、四分の一世紀前の第一次欧州大戦のとき、ここが如何に安全であったかという歴史について、諄々説明があった。あのときには、しばしば英国全艦隊がこの港内に集結して鋭気を養っていたそうで、すでに試験ずみの安全港であるそうな。

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