海野 十三
月世界探険記
新宇宙艇
月世界探険の新宇宙艇は、いまやすべての出発準備がととのった。
東京の郊外の砧といえば畑と野原ばかりのさびしいところである。そこに三年前から密かにバラック工場がたてられ、その中で大秘密のうちに建造されていたこのロケット艇は、いまや地球から飛びだすばかりになっていた。魚形水雷を、潜水艦ぐらいの大きさにひきのばしたようなこの銀色の巨船は、トタン屋根をいただいた梁の下に長々と横たわっていた。頭部は砲弾のように尖り、その底部には、缶詰を丸く蜂の巣がたに並べたような噴射推進装置が五層になってとりつけられ、尾部は三枚の翼をもった大きな方向舵によって飾られていた。銀胴のまん中には、いまポッカリと丸い窓が明いている。いや窓ではない。人間が楽にくぐれるくらいの出入口なのだ。その出入口をとおして、明るい室内が見える。電気や蒸気を送るためのパイプが何本となく壁を匍いまわり配電盤には百個にちかい計器が並び、開閉器やら青赤のパイロット・ランプやら真空管が窮屈そうに取付けられていて、見るからに頭の痛くなるような複雑な構造になっていた。
通信係の六角進少年は、受話器を耳にかけたまま、机の上に何かしきりと鉛筆をうごかしていたが、やがて書きおえると、ビリリと音をさせて一枚の紙片を剥いで立ち上った。そこで電文をもう一度読みなおしてから、受話器を頭から外し、