横瀬 夜雨

田舎の新春

田舍の正月は今でも舊だから都會の正月より一月以上後れる。田舍だけに都會人の知らない面白い正月行事があるのだが、年と共に頽れてゆくのもあるから、その三四を抄録してみやう。

三ヶ日の珍風習

舊正月の三日間、餅を搗いても※(「「滔」の「さんずい」に代えて「しょくへん」」、第4水準2-92-68)をつくらぬ家がある。いかなる理由であるか明瞭ではないけれど、その三日間餅を納豆や鹽鮭で喰べ、四日目に至つてはじめて※(「「滔」の「さんずい」に代えて「しょくへん」」、第4水準2-92-68)をつくる。所謂「家風」であるが,おそらく昔の貧困時代をしのぶ、年のはじめの節儉の覺悟でもあらうか。即ち贅澤と思惟されてゐた砂糖を絶つのである。

その一例に、或る家では(今相當の資産家なのだが)三日間その家の主人が、尾籠な話ではあるが下便所へいつて、鹽黄粉で餅を喰べるのである。御念の入つた事には紺の仕事股引をはき簑を着、しかも跣で。

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