宮本 百合子

人民戦線への一歩

うちを出て、もよりの省線の駅までゆく途中の焼跡にも、この頃はいろいろの露店が出はじめた。葭簀ばりの屋台も、いくつかある。

きのう、霜どけのぬかるみを歩いてその通りをゆくと、ちょうど八百やが露店を出していた。人参、葱、大根が並んでいる。鉢巻した売りてが、大きい一本の大根をぶら下げて、あっちからこっちへと積みかえながら、

「さア、この大根だと、一本十六円」

そう呼んでいる。何人かの男女が、八百やの前に佇んでいた。が、誰も彼も黙然として野菜を見下し、その声をきいているのであった。

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