宮本 百合子
作家への新風
封鎖で原稿料を払うということは、これから作品をかいてゆく人のために、ますます条件がわるい、新しい作家、新しい日本の文学は生れにくい、ということである。今日、出版は、大部分が営利に立っている。営利の目やすから、荷風のところへ、封鎖ですが、と長篇をたのむ玄人はいない。
それこれ考えていたらば、この間、労働科学研究所から、一枚のアンケートが送られて来た。それは珍しい作家の労働調査のアンケートである。
その中に創作活動を有利にする社会施設のようなものはいらないか。営利出版と作家自身の出版と国家による出版といずれをとるか。そして、最後の項に、著作家の組合は入用と思うか、という問いが出ている。
戦争中の日本の文化殺戮の実状や、日本の文化人が歴史的に自主性を欠いていることについての反省は、日本の近代史の見直しと共に真摯な課題となって来ている。日本の作家のおくれている状態は市民精神に於ておくれたまま、文学は神聖な超俗的な仕事であるという先入観に絡みとられている無力さに現われているとも考えられる。軍事的専制と営利出版との共同圧力で、真の文化は潰された。