吉行 エイスケ
職業婦人気質
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美容術をやっている田村スマ子女史は山ノ手に近代風なささやかなビュテイ・サロンを営んで、美しいモダァン・マダムたちにご奉仕していた。そして彼女の夫の田村英介氏は才能あるにもかかわらず不幸にしてまだ無名の文士ではあったが、スマ子女史がつねに「彼氏浮気もの」と称しているだけになか/\各方面に発展してスマ子女史に愉快な煩悶をときどき提供するのであった。
すでにスマ子女史と英介氏が結婚して数年になっていたが、いまだかつて二人は、ちょいと拗ねたり、お小使いがなくてすこしばかり憂鬱になることはあっても、こんにちかぎり僕は君とわかれる、とか、そんなに君が云うんなら妾でて行きますなどと夫婦でいさかうようなことをしたことがないのだ。
スマ子女史は英介氏と結婚して東京の郊外に文化住宅を借りて棲んだところ、最初に彼女を煩悶さす事件があった。それは英介氏のむかし馴染みの女友だちがたずねてやってきて、英介氏を郊外の酒場へさそったり、彼女たちのアパルトマンでポーカーを一晩中やったり、英介氏にタキシードを着せてテッフィン(レストラン)に連れだしたりしたからだ。