横光 利一

夜の靴

八月――日

駈けて来る足駄の音が庭石に躓いて一度よろけた。すると、柿の木の下へ顕れた義弟が真っ赤な顔で、「休戦休戦。」という。借り物らしい足駄でまたそこで躓いた。躓きながら、「ポツダム宣言全部承認。」という。

「ほんとかな。」

「ほんと。今ラヂオがそう云った。」

青空文庫の作品カード