横瀬 夜雨
女子文壇の人々
河井醉茗の五十年の祝をした時、私は上野から精養軒へ眞直に行つたので、誰もまだ來てゐなかつた。上つたんだか、下りたんだか忘れたが、左に庭を見て長い廊下を行くあたりで、向うから山田邦子さんが歩いて來るのに會つた。いきなり手を出して私をいたはるやうにして、よく出て入らしたと喜んでくれた。十六年ぶりの邂逅である。足が惡いと聞いてゐたが、歩くところを見ると疾い。瞳はむかしながらに澄んでたけれど、掌は私の方が小さいかして兩のこぶしの中へ包まれたのが剛い感じだつた。
板倉鳥子さんが來た。風の強い日にはお堀端を通らぬやうにと祈つてゐる。それ程華奢である。
三宅やす子さんも入らした。加藤弘之先生の許に居らるる時分から素ばらしい手を書いたが、今はペンの外お用ゐにはなるまい。
手跡の美事な方になほ三宅恒子さん。薄倖の運命を辿つた工學士未亡人が居る。お出になるかも知れぬと思つたが入らつしやらなかつた。