海野 十三

雷

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山岳重畳という文字どおりに、山また山の甲斐の国を、甲州街道にとって東へ東へと出てゆくと、やがて上野原、与瀬あたりから海抜の高度が落ちてきて、遂に東京府に入って浅川あたりで山が切れ、代り合って武蔵野平野が開ける。八王子市は、その平野の入口にある繁華な町である。

――待って下さい、その八王子を、まだ少し東京の方へゆくのである。そう、六キロメートルも行けばいいが、それに大して賑かではないけれど、近頃頓に戸口が殖えてきた比野町という土地がある。

それは梅雨もカラリと上った七月の中旬のこと、日も既に暮れてこの比野の家々には燭力の弱い電灯がつき、開かれた戸口からは、昔ながらの蚊遣りの煙が濛々とふきだしていた。

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