海野 十三

人造人間事件

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理学士帆村荘六は、築地の夜を散歩するのがことに好きだった。

その夜も、彼はただ一人で、冷い秋雨にそぼ濡れながら、明石町の河岸から新富町の濠端へ向けてブラブラ歩いていた。暗い雨空を見あげると、天国の塔のように高いサンタマリア病院の白堊ビルがクッキリと暗闇に聳えたっているのが見えた。このあたりには今も明治時代の異国情調が漂っていて、ときによると彼自身が古い錦絵の人物であるような錯覚さえ起るのであった。

通りかかった火の番小屋の中から、疳高い浪花節の放送が洩れてきた。声はたいへん歪んでいるけれど、正しく蒼竜斎膝丸の「乃木将軍墓参の旅」である。時計の針は九時を廻って、九時半の方に近づきつつあるものらしい。さっき喫茶店リラで紅茶を啜っていたときには、八時からの演芸放送のトップとして、ラジオドラマ「空襲葬送曲」が始まったばかりのところだったが。

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