薄田 泣菫

木犀の香

「いい匂だ。木犀だな。」

私は縁端にちよつと爪立ちをして、地境の板塀越しに一わたり見えるかぎりの近処の植込を覗いてみた。だが、木犀らしい硬い常緑の葉の繁みはどこにも見られなかつた。この木の花が白く黄いろく咲き盛つた頃には、一二丁離れたところからでもよくその匂が嗅ぎつけられるのを知つてゐる私は、それを別にいぶかしくも、また物足りなくも思はなかつた。

名高い江西詩社の盟主黄山谷が、初秋のある日晦堂老師を山寺に訪ねたことがあつた。久濶を叙しをはると、山谷は待ちかねたもののやうに、

「時につかぬことをお訊ね申すやうですが……」

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